「8+5」のような計算はスラスラできるのに、「りんごが8こ、5こもらったら?」という文章題になると、急に固まってしまう。「計算できるのに、なんで?」と、不思議で、少しもどかしいですよね。そして、つい「ちゃんと読みなさい」と言ってしまって、子どもの表情がくもる。そんな場面に、心当たりはありませんか。
先に結論をお伝えします。計算はできるのに文章題が解けないのは、「文を読んで、その場面を頭に思い浮かべる力(イメージ力)」がまだ育っていないからです。これは、難しい言葉をたくさん知っているかどうか、という意味での国語力とは違います。大切なのは、お話を”絵”のように思い描けるかどうか。そして実は、文章題の「読む」は、ひとつの力ではなく3つの力に分かれています。この記事では、その3つの力を整理したうえで、イメージ力を遊びで育てる方法、ちゃんと読めているかの確かめ方まで、順番にお話しします。
文章題の「読む」は、3つの力でできている
「ちゃんと読みなさい」と言いたくなりますが、文章題を「読む」には、実は3つの違う力が必要です。お子さんがどこでつまずいているかで、手の打ち方が変わります。
| 読む力 | やること | つまずきのサイン |
|---|---|---|
| ① 字を追う | 文字をすらすら読む | 一文字ずつ拾い読み・読むだけで疲れる |
| ② 場面を思い浮かべる | お話を頭の中で絵にする | 読めるのに「どういうこと?」となる |
| ③ 問われ方を聞き取る | 何を聞かれているか分かる | 「ぜんぶで?のこり?」を取り違える |
計算ができる子が文章題でつまずく場合、①の「字を追う」はできていることがほとんどです。詰まっているのは、たいてい②の「場面を思い浮かべる」か、③の「問われ方を聞き取る」。つまり、必要なのは難しい漢字や語彙ではなく、お話を絵にする力と、最後の問いに気づく力なのです。
どうして「場面を思い浮かべる力」がいるの?
文章題を解くとき、できる子の頭の中ではこんなことが起きています。「りんごが8こ、5こもらった」を読むと、頭の中に”りんごが8個あって、そこに5個増える様子”が浮かぶ。だから「増えるから足し算だ」と分かり、8+5にたどり着く。
つまり、文字を「絵」に変換できて初めて、足すのか引くのかが見えてくるのです。計算する力があっても、この”絵にする”ステップを飛ばすと、式そのものが立てられません。だから「計算はできるのに文章題はできない」が起こります。これは能力の問題ではなく、まだ伸びていない別の力、というだけのこと。叱る必要はまったくありません。
お話を「絵」にできる子に育てる
イメージ力(②の力)は、特別な教材がなくても、毎日の中で楽しく育てられます。お子さんの好きそうなものから、ひとつ試してみてください。
- 問題文を一緒に絵にする:「どんな様子か、一緒に描いてみよう」と、りんごやあめを描きます。下手な絵でまったく構いません。文字を絵に置き換える、その作業そのものが力になります。
- おはじきや実物で再現する:絵が苦手な子向き。「りんごが8個ね(おはじきを8個並べる)。5個もらったよ(5個足す)。さて何個?」と、お話のとおりに手を動かすと、増える・減るが目の前で見えて、場面がストンと入ります。
- 短いお話を聞いて絵にする遊び:「うさぎが3びき、2ひき来ました」を聞いて絵を描くだけ。文を場面に変える力がつきます。
- 生活の場面で口頭出題:おやつや買い物で「クッキーが6まい、2まい食べたら何まい残る?」と出すと、文章題が”自分ごと”になり、ぐっとイメージしやすくなります。
机に向かわせる必要はありません。むしろ、遊びや暮らしの中でのほうが、子どもは身構えずに力をつけます。
そもそも「字を追う」だけで疲れてしまう子には
少数ですが、①の「字を追う」段階で力を使い切ってしまう子もいます。一文字ずつ拾い読みするのに精いっぱいで、読み終わるころには、最初に何が書いてあったか頭に残っていない。これでは、場面を思い浮かべる余力が残りません。
そんなときは、親が問題文を読んであげて大丈夫です。「自分で読ませなきゃ」と思いがちですが、文章題で育てたいのは”読む力”ではなく”場面をイメージして式にする力”。読む負担を親が肩代わりすれば、子どもはイメージのほうに集中できます。読むこと自体がいつも大変そうなら、それは文章題とは別に、ゆっくり音読に慣れていけば十分。算数の時間に読みの練習まで背負わせない、と切り分けてあげてください。
見落とされがちな「問われ方を聞き取る」力
意外と多いのが、③の「問われ方を聞き取る」でのつまずきです。場面は浮かんでいるのに、最後の「ぜんぶでなんこ?」「のこりはなんこ?」を読み飛ばして、なんとなく数字を足してしまう。これは読む力の最後のピースです。
効くのは、問いの文だけを指さして、もう一度読ませること。「で、聞かれているのは何だっけ?」と、最後のひと文に注目させます。問題文に「ぜんぶで」「のこりは」といった言葉に丸をつける習慣も有効です。場面を思い浮かべる力と、問いを聞き取る力。この2つがそろうと、文章題はぐっと解きやすくなります。
「ちゃんとイメージできているか」を確かめるには
お子さんが本当に場面を思い描けているかは、「どんなお話だった?ことばで教えて」と説明させてみると分かります。「りんごがね、8個あって、5個もらったの」と自分の言葉で言えれば、イメージはできています。逆に、数字だけ並べて答えに飛ぼうとするなら、まだ場面が浮かんでいないサインです。
確かめるときのコツは、正解かどうかを試すのではなく、「お話を教えてくれてありがとう、よく分かったよ」と、説明できたこと自体を喜ぶこと。「話す→絵が浮かぶ→式になる」という順番が、子どもの中で自然につながっていきます。
「足すの?引くの?」で迷うのは、次の段階
ここまでで場面をイメージできるようになっても、「で、足すの?引くの?」と立式で迷う子もいます。それは、また別のつまずきポイント。+か−かの判断・立式のコツは、数字だけ見て解く子への立式の教え方でくわしく解説しています。場面が浮かんでも絵にするのを嫌がる子には、絵を嫌がる子が描き出すコツも役立ちます。まずは「場面をイメージする」ここから、一段ずついきましょう。文章題全体の進め方は文章問題が解けないのは国語力のせい?もあわせてどうぞ。
想定エピソード:「お話して」で変わった日
以前、計算は得意なのに文章題で固まる子に、「もっとちゃんと読んで」と何度も言っていたお母さんがいました。でも、言えば言うほど子どもは文章題をいやがるようになっていったそうです。
あるとき、読ませる代わりに「どんなお話だった?ママに教えて」と聞いてみたといいます。すると子どもは「えっとね、りんごが8個あって……」と話し始め、話しているうちに「あ、増えるから足すんだ」と自分で気づいた。「読めていなかったんじゃなくて、頭の中で絵にできていなかっただけだった」と分かってからは、まず口でお話させることで、文章題への苦手意識がほどけていったそうです。
よくある質問
Q. 音読はスラスラできるのに、文章題が解けません。
A. それは「字を追う力」はあるけれど、「場面を思い浮かべる力」がまだ育っていないサインです。読む練習を増やすより、おはじきや絵で場面を再現する遊びのほうが効きます。読めることと、イメージできることは別の力なのです。
Q. 国語の読解ドリルをやらせれば、文章題も解けますか?
A. 直接はつながりにくいです。国語の読解は長文の理解、算数の文章題は「短い場面を数に翻訳する力」。鍛える場所が違います。文章題には、絵にする・実物で再現する練習のほうが近道です。
Q. 場面は分かっているのに、答えがずれます。
A. 「問われ方を聞き取る力」でつまずいている可能性があります。最後のひと文「ぜんぶで?のこり?」を一緒に指さして読み直してみてください。問いを取り違えているだけなら、そこを意識するだけで正解が増えます。
Q. 親が一緒に絵を描くのを、面倒がります。
A. 無理に描かせず、まずは親が描いて見せるだけでOKです。「ママが描くから、合ってるか見てて」と役割を逆にすると、抵抗が減ります。実物(おやつやおはじき)で再現するほうが乗ってくる子も多いので、その子に合う方法で大丈夫です。
「絵にする力」は、遊びの中で育つ
計算ができるのに文章題で固まるのは、お子さんが「文を場面に変換する」という、算数ならではのステップでつまずいているだけ。難しい言葉を覚えさせる必要はありません。必要なのは、お話を絵のように思い描く”イメージ力”と、最後の問いを聞き取る力。そしてそれは、絵を描いたり、おはじきで再現したり、生活の中でお話を出したりする遊びの中でこそ、いちばんよく育ちます。
今日「計算はできるのに」とため息が出たら、それは裏を返せば「計算という土台はもうできている」という証拠です。あとは絵にする一歩だけ。まずは、「どんなお話か、ママに教えて」とお子さんに聞いてみるところから始めてみてください。「あ、こういうことか!」とひらめく顔は、すぐそこまで来ています。

