「図を描いて考えてごらん」と言っても、頑として描かない。「めんどくさい」「描けない」と嫌がって、結局あてずっぽうで答えを出してしまう……。文章題に図が有効なのは分かっていても、肝心の子どもが描いてくれないと、どうにもなりませんよね。「描けば解けるのに」と、もどかしい気持ちになります。
先に結論をお伝えします。図を嫌がるのは、「上手に描かなきゃ」というプレッシャーや、「面倒」「描く意味が分からない」と感じているからです。だから、「上手に描かなくていい」と伝え、「描いたら解けた」を体験させることで、子どもは少しずつ自分から描くようになります。この記事では、図を嫌がる理由を整理し、絵にするための3つの段階、描き出すための具体的なコツ、そして描いた絵を式につなげる方法まで、順番にお話しします。
どうして「図を描いて」と言っても描かないの?
図を嫌がる子の心の中には、たいてい次のどれかがあります。ひとつは、「上手に描かなきゃ」と思っていること。りんごや動物をちゃんと描こうとして、面倒になり手が止まります。ふたつ目は、描く意味が分からないこと。「図にすると解ける」という実感がないので、ただの作業に感じてしまう。三つ目は、そもそも書くこと自体が負担なこと。手先がまだ不器用な小1にとって、描くのは思いのほか疲れます。
つまり、「描きなさい」と指示するだけでは動けないのです。大事なのは、ハードルをぐっと下げて、「描くと得する」と本人に実感させること。この2つがそろうと、子どもは驚くほどあっさり描き出します。
絵にするには「3つの段階」がある
文章題の図は、いきなり完成形を求めると嫌がられます。次の3段階を、ゆっくり順にのぼっていくのがコツです。お子さんが今どの段階かを見てあげてください。
| 段階 | 描き方 | 何が育つ |
|---|---|---|
| ① 数を○で描く | りんごを○で8こ、5こ描く | 数を目に見える形にする |
| ② 増減を表す | 増えたら○を足し矢印、減ったら斜線で消す | 足し算・引き算の判断 |
| ③ シンプルな図へ | 絵をやめ、数とまとまりだけの図に | テープ図・線分図の土台 |
まずは①の「○で描く」だけで十分です。ここができれば、文章題はぐっと解きやすくなります。②③は、①に慣れてから少しずつ。最初から③のきれいな図を求めると、子どもは身構えてしまいます。一段ずつ、が鉄則です。
まず「○や棒でいい」と、ハードルを下げる
最初の関門は「上手に描かなきゃ」の思い込みです。ここを外してあげましょう。りんごをていねいに描く必要はありません。「りんごは○でいいよ。○を8こ描いてみよう」と、記号で十分だと伝えます。これだけで「面倒」のハードルが一気に下がります。
それでも手が動かない子には、いきなり描かせず、まず親がお手本を見せるのが効果的。「ママが描いてみるね。りんごが○○○……5こ増えたよ」と、解く過程を見せます。子どもは「そうやればいいのか」とマネから入れます。さらに、一人で描かせるのではなく、隣で「ここに○、こっちに矢印」と一緒に手を動かすと、嫌がる子も乗ってきやすくなります。共同作業から始めるのが、遠いようでいちばんの近道です。
親がお手本を描くときの、3つのコツ
「お手本を見せる」と言っても、ただ完成した図を見せるだけでは、子どもには伝わりにくいものです。次の3つを意識すると、マネしやすいお手本になります。
ひとつ目は、声に出しながら描くこと。「りんごが3こ……(○を3つ)、2こもらった……(○を2つ)」と、文を読みながら手を動かす。文と絵が結びつく瞬間を、目と耳の両方で見せます。ふたつ目は、わざとゆっくり・雑に描くこと。きれいに描くと「自分には無理」と感じさせます。あえて○をいびつに描いて「ほら、これくらいでいいんだよ」と見せると、安心して真似できます。三つ目は、途中で子どもに振ること。「次の2こ、どこに描く?」と一部を任せると、見ているだけより一気に自分ごとになります。
お手本のゴールは、上手な図を見せることではなく、「これなら自分にもできそう」と思わせること。完璧な図より、ツッコミどころのある図のほうが、子どもは動きやすいのです。
「描いたら解けた!」を、ことばにする
ハードルを下げたら、次は「描く意味」を体で覚えさせます。一度でも、図にしてスッと解けた経験をすると、子どもは図の威力を実感します。そのときすかさず、「ほら、絵にしたら答えが見えたね!」と、図のおかげで解けたことを言葉にしてあげてください。
この「描いた→解けた→嬉しい」の小さな成功体験が積み重なると、「困ったら描いてみよう」が自分の習慣になっていきます。逆に、せっかく描けても結果だけ見て「合ってるけど時間かかりすぎ」などと言うと、せっかくの意欲がしぼんでしまうので注意です。今は速さより、「描けば分かる」という安心感を育てる時期です。
描いた絵を「式」につなげる
絵が描けるようになったら、段階②の仕上げです。描いた絵に「動き」を足して、式に橋渡しします。増えるときは新しい○を描いて矢印で「足す」、減るときは○を斜線で消して「引く」。こうして動きを矢印や斜線で表すと、「増えたから足し算」「減ったから引き算」という立式の判断に、自然とつながります。
「○が8こ、5こ増えた(矢印を描く)。だから8たす5だね」。絵と式が一本の線でつながった瞬間、文章題は「こわいもの」ではなくなります。立式そのものでつまずく場合は、数字だけ見て解く子への立式の教え方もあわせてどうぞ。そもそも場面が浮かばずに描けない場合は、計算はできるのに解けない子へのイメージ力の育て方が先になります。
「○の絵」は、テープ図・線分図の土台になる
この「○を並べて、増減を矢印で表す」描き方は、段階③として、学年が上がってから習う「テープ図」や「線分図」の土台になります。今は遊びのような○の絵でも、「数を図で考える」という習慣そのものが、これから先ずっとお子さんを助けてくれます。
無理に今テープ図を教える必要はありません。○がたくさんになって描くのが大変になってきたら、「○を全部描かなくても、長四角ひとつで”8こ”って書いてもいいよ」と、自然に簡略化を促すだけで十分。子どもが「描くのが面倒」と感じたそのときが、シンプルな図に進むサインです。あせらず、その子のペースで一段ずつ進めてください。文章題全体の進め方は文章問題が解けないのは国語力のせい?へ。
想定エピソード:ママが描いたら、描き出した
以前、「図を描きなさい」と言っても頑として描かない子に、手を焼いていたお母さんがいました。「描けば解けるのに」と言うほど、子どもは鉛筆を持つのも嫌がるようになっていったそうです。
あるとき、描かせるのをやめて、自分が描いて見せることにしたといいます。「ママが描くから見てて。りんごが○○○……」とやって解いてみせると、子どもが「ぼくにもやらせて」と興味を示した。○でいいと分かってからは、自分でも描くように。「描きなさいと命令していたときは動かなかったのに、お手本を見せたら勝手に描き出した」と、その方は笑っていました。
よくある質問
Q. 絵を描くのに時間がかかりすぎます。
A. 今は速さより「描けば分かる」を覚える時期なので、時間がかかってもOKです。慣れてくると自然に速くなりますし、○が多くて大変なら、長四角ひとつでまとめる簡単な図に切り替えれば短くなります。せかさず見守ってあげてください。
Q. 絵が雑で、何を描いたか分かりません。
A. 本人が分かっていれば、雑でも大丈夫です。文章題の図は、上手に描くためではなく、自分の考えを整理するためのもの。「これは何のお話?」と説明できれば十分機能しています。きれいさは求めなくて構いません。
Q. 絵なしで解ける子には、描かせなくていいですか?
A. 頭の中で図がイメージできているなら、無理に描かせる必要はありません。図はあくまで道具です。ただ、難しい問題で詰まったときに「描いてみる」という手札を持っておくと安心なので、その存在だけは知らせておくとよいです。
Q. いつまで○の絵を描かせていいですか?
A. 期限はありません。子どもが「○を全部描くのは面倒」と感じたら、それが簡単な図(テープ図など)に進むサイン。自然に簡略化していけば大丈夫です。低学年のうちは、○の絵で「数を図にする」習慣がつくことのほうが大切です。
「上手じゃなくて大丈夫」が、魔法の言葉
文章題で図を描かないのは、お子さんが面倒くさがりだからではなく、「上手に描かなきゃ」というプレッシャーや「描く意味が分からない」だけ。○や棒で十分だと伝え、親が一緒に描き、「描いたら解けた」を体験させれば、子どもは図の便利さに気づいて、自分から手を動かし出します。
図は、文章題を解くための心強い味方です。でも、それ以上に大切なのは、隣で一緒に○を描いてくれる人がいる安心感。今日は、文章題を前にしたら、まず「上手じゃなくて大丈夫。りんごは○でいいよ。ママも一緒に描くね」と、クレヨンを2本用意するところから始めてみてください。「描いたらできた!」の笑顔が、何よりの次への燃料になります。

