「さくらんぼ計算、毎回めんどくさい……」「九九みたいに『7+6=13』って丸暗記させちゃダメなのかな?」。繰り上がりのたびに時間がかかる我が子を見ていると、いっそ答えごと覚えさせたくなりますよね。その気持ち、とてもよく分かります。
先に結論をお伝えします。「意味を理解しないままの丸暗記」はおすすめしません。でも、「理解したうえで、結果的に覚えてしまう」のは大歓迎です。 大切なのは順番。ここを逆にすると、後で必ずつまずきます。この記事では、なぜ最初の丸暗記が危ないのかを整理し、「危ない暗記」と「効く暗記」の違い、効く暗記に変わる3つの段階、そして「九九は暗記なのに、なぜ足し算はダメなの?」という疑問にもお答えしていきます。
同じ「暗記」でも、危ない暗記と効く暗記がある
まず押さえておきたいのは、暗記そのものが悪いわけではない、ということ。問題は「順番」です。意味より先に答えを覚えるか、意味のあとに自然と覚えるか。この違いで、暗記は毒にも薬にもなります。
| 危ない暗記 | 効く暗記 | |
|---|---|---|
| 順番 | 意味より先に答えを覚える | 意味が分かった後に覚える |
| 中身 | 「7+6は13」と丸ごと記憶 | 「10をつくる」感覚が定着した結果 |
| 応用 | 繰り下がり・2けたで崩れる | 別の計算にも応用が効く |
| 気持ち | 覚えきれず算数嫌いに | できる自信につながる |
目指したいのは、右側の「効く暗記」です。スラスラ計算できる子は、結果的に「7+6=13」を覚えています。でもそれは、丸暗記したのではなく、意味を理解して繰り返すうちに、自然と体に入ったもの。暗記は”スタート”ではなく”ゴール”なのです。
なぜ「いきなり丸暗記」はおすすめできないの?
繰り上がりの答えを、意味がわからないまま丸暗記させるのは、いわば砂の上に家を建てるようなもの。一見うまくいっているように見えても、後でこんな壁にぶつかります。
ひとつ目は、繰り下がりや2けたで一気に崩れること。「7+6=13」を暗記でしのげても、引き算の繰り下がり、やがて2けた・3けたの計算では、暗記だけでは到底追いつきません。土台にある「10をつくる感覚」がないと、応用がまったく効かないのです。ふたつ目は、「考えない子」になってしまうこと。意味を考えずに答えだけ出す習慣がつくと、少しひねった問題や文章題で「習ってない」とフリーズしがちに。算数は積み上げの教科なので、最初に「考える楽しさ」を飛ばすと、後の伸びが頭打ちになります。三つ目は、覚えきれずに算数嫌いになりやすいこと。足し算の組み合わせは想像以上にたくさんあり、意味の支えがないまま全部覚えるのは大きな苦痛。「覚えられない=自分はダメ」と感じてしまいます。
「九九は暗記なのに、足し算はなぜダメ?」
ここで多くの方が疑問に思うのが、「九九は丸暗記でいいのに、足し算の暗記はどうしてダメなの?」ということ。これはとてもいい問いです。
違いは、土台ができる順番にあります。九九(かけ算)は、小2でかけ算の意味を学んでから暗唱に入ります。つまり「意味を理解したうえでの暗記」という、正しい順番になっているのです。一方、小1の足し算でいきなり答えを覚えさせると、意味の土台がないまま暗記から入ることになり、順番が逆になってしまいます。さらに足し算は、後の繰り下がりや筆算の土台そのもの。ここを感覚で分かっておくことが、九九以上に効いてきます。だから「九九はOKでも、足し算をいきなり丸暗記はNG」。暗記がダメなのではなく、土台より先に暗記するのがダメ、というわけです。
効く暗記に変わる、3つの段階
では、どうすれば「効く暗記」にたどり着けるのか。目指す順番はこの3段階です。
- 意味が分かる:おはじき等で「10をつくる感覚(10の合成・分解)」を体感し、さくらんぼ計算などで「なぜそうなるか」を理解する(やり方はさくらんぼ計算につまずく理由と別のやり方で解説)。
- 自分で出せる:時間はかかっても、自分の力で「10をつくって」答えを出せるようになる。ここが暗記の手前のいちばん大事な段階です。
- 繰り返して定着する:同じ計算を繰り返すうちに、考えなくてもパッと答えが出るようになる。これが「効く暗記」の完成形です。
この順番なら、暗記は「考えなくてもパッと出る」という心強い武器になります。繰り上がり・繰り下がり全体の進め方は、繰り上がり・繰り下がりでつまずく子への全体まとめもあわせてどうぞ。
「覚えさせたい」と思ったときの、正しい関わり方
覚えさせたくなったら、次の3つを意識してみてください。まず、反復するなら「理解できた計算」から。意味が分かった計算を、ゲーム感覚で何度も口に出すのは効果的です。「10になるペア(1と9、2と8…)」をクイズにして繰り返すと、暗算の土台が自然と暗記レベルまで定着します。次に、急がないこと。「早く覚えて!」と急かすほど、子どもは丸暗記モードに逃げ込みます。「意味が分かってれば、覚えるのは後からで大丈夫」と、どっしり構えてあげてください。そして、声かけのコツ。覚えていなくても、考えて答えを出せたら、まずそこを褒めます。「答えを覚えてなくても、自分で10をつくって出せたね。それが一番すごいことだよ」。暗記より”考えられたこと”を価値づけると、子どもは安心して土台を育てられます。
「効く暗記」に近づける、毎日の小さな練習
意味の土台ができてきたら、定着を後押しする遊びを少しずつ取り入れると、暗記レベルまでスムーズに進みます。机に向かわせる必要はありません。
- 10になるペアの早口クイズ:「3とあといくつで10?」をテンポよく出し合う。これが反射的に出ると、繰り上がり全体が一気にラクになります。
- お風呂で「今日の1問」:その日つまずいた式を1つだけ、湯ぶねで一緒に唱える。1日1問でいいので、無理なく続けられます。
- できた計算を「貯金」する:考えずに言えるようになった式を紙に書いて貼り、増えていくのを見せる。覚えた数が目に見えると、本人のやる気になります。
どれも「覚えさせる」のではなく、「気づいたら覚えていた」を作るための遊びです。やらされ感が出たらいったんお休み。楽しく続けられる範囲が、いちばん定着します。
想定エピソード:覚えさせるのをやめたら、覚えた
以前、繰り上がりに時間がかかる我が子に、「7+6は13、はい言って」と答えを暗記させようとしていたお母さんがいました。でも子どもはなかなか覚えられず、「えっと、いくつだっけ……」と混乱し、だんだん算数をいやがるように。覚えさせるほど嫌いになっていく悪循環だったそうです。
あるとき、暗記をいったんやめて、おはじきで「10をつくる」遊びに切り替えたといいます。答えを急がず、自分で10をつくって出せたら「それが一番すごい」と認める。すると数週間後、よく出てくる計算から「あ、これは13でしょ」と、覚えようとしなくても自然に口から出るようになった。「覚えさせるのをやめたら、勝手に覚えた」と、その方は笑っていました。
よくある質問
Q. 公文式などで暗記中心に進めるのは、ダメなのですか?
A. 一概にダメではありません。反復で定着させる学習法にも良さがあります。ただ家庭で見るときは、答えを覚えているかだけでなく、「10をつくる意味が分かっているか」を時々確かめてあげると安心です。意味と反復の両輪で進むのが理想です。
Q. もう答えを丸暗記させてしまいました。やり直しですか?
A. やり直しではありません。覚えていること自体は財産です。そこへ後から「なぜそうなるか」をおはじきで補ってあげれば、危ない暗記が効く暗記に変わります。「13になるのは、10をつくるからだよ」と意味を足してあげてください。
Q. 覚えていないと、授業についていけないのでは?
A. 小1のうちは、速さより「自分で考えて答えを出せるか」が見られています。時間がかかっても、10をつくって出せていれば順調です。スピードは土台が育てば後からつくので、今は過程を大事にして大丈夫です。
Q. どこまで覚えたら「定着した」と言えますか?
A. よく出る組み合わせ(10になるペアや、7+6のような繰り上がり)が、考え込まずに出てくれば十分です。全部を完璧に暗記する必要はありません。詰まったら自分で10をつくって出せる、その状態がいちばん強いです。
暗記は「スタート」ではなく「ゴール」
繰り上がりを丸暗記でしのぎたくなる気持ちは、とてもよく分かります。毎回さくらんぼで時間がかかる我が子を見ていれば、「いっそ覚えてくれたら」と思うのは自然なこと。でも、意味を飛ばした暗記は、後でつまずきの原因になりがちです。目指したいのは、「10をつくる感覚」を土台に、繰り返すうちに自然と覚えてしまうこと。その順番さえ守れば、暗記は最強の味方になります。
「理解 → 反復 → 定着」の流れに毎日付き合うのは、正直大変ですよね。でも、焦って答えを覚えさせなくて大丈夫。お子さんが時間をかけて自分で10をつくっているなら、それはサボっているのではなく、いちばん大事な土台を今まさに積んでいる最中です。だから答えを急かす前に、「答えを覚えてなくても、自分で10をつくって出せたね。それが一番すごいことだよ」と、その過程をまるごと認めてあげてください。考える力をほめられた子は、安心して土台を育て、やがて答えを”覚えてしまった子”になっていきます。

