「13ひく8は……」と言ったきり、鉛筆が止まってフリーズ。足し算はできるようになったのに、引き算の繰り下がりになった途端、つまずいてしまう。「どうしてここだけ?」と、親も戸惑いますよね。何度教えても固まる我が子を見て、つい焦ってしまう気持ち、よく分かります。
先に結論をお伝えします。繰り下がりは、小1算数の中でも一番の難所です。できなくて当たり前。 つまずきの原因は、頭の中で「13を10と3に分けて、10から8を引いて、残りを足す」という、目に見えない後戻りの操作を求められるからです。そして実は、繰り下がりの解き方は1つではありません。学校で習うやり方が合わなくても、別のやり方ならすっと通れることがあります。この記事では、なぜ繰り下がりが難しいのかを説明したうえで、3つの解き方からお子さんに合うものを選ぶ方法、おはじきでの教え方、つまずきどころの見分けまで、順番にお伝えします。
なぜ繰り下がりは、繰り上がりより難しいの?
繰り上がりの足し算(8+5)は、「10をつくって、余りを足す」という前向きな操作でした。一方、繰り下がりの引き算(13−8)は、「一度バラして、引いて、また合わせる」という後戻りのある操作。手順が一段複雑になります。
引き算なのに途中で足し算が出てくることもあり、この入り組んだ流れが、低学年の子の頭にはとても複雑に感じられます。だから、できないのは能力のせいではなく、操作が本当に難しいから。まずは親が「これは全員がつまずく難所なんだ」と知ってあげることが、穏やかな声かけの第一歩です。
繰り下がりには「3つの解き方」がある
繰り下がりは、実はいくつかの解き方があります。学校では「減加法」で習うことが多いですが、それが合わない子もいます。3つを並べてみるので、お子さんがどれだと「分かった!」となりそうか、見てみてください(例はすべて「13−8」)。
| 解き方 | 手順 | 向いている子 |
|---|---|---|
| 減加法(学校の主流) | 13を10と3に分け、10−8=2、2+3=5 | 「10のかたまり」が分かる子 |
| 減々法 | 13からまず3を引いて10、10から残り5を引いて5 | 引き算を続けたい子・足し算が混じると混乱する子 |
| 数え引き | 13から「12, 11, 10…」と8つ戻って5 | 数の並びで考えるのが得意な子・少人数の引き算 |
ポイントは、「学校=減加法」が唯一の正解ではないということ。減加法で固まる子に、減々法を見せたら一発で通った、というのはよくある話です。まずは学校のやり方で試し、つらそうなら別の道に切り替えてあげてください。どれでも、正しく答えが出せれば立派な正解です。
学校の「減加法」を、おはじきで解きほぐす
まずは主流の減加法を、手でさわれる具体物で体感させましょう。いきなりプリントではなく、おはじきから始めるのが近道です。
おはじきやブロックを13個用意し、10個のかたまりとバラの3個に分けて置きます。「13は、10のおうちと、バラの3に分けられるね」と、目で見て確認させます。ここが繰り下がりの土台です。次に8を引くとき、子どもはつい目の前のバラ3個から引こうとして「足りない!」と止まります。ここでこう声をかけます。「バラの3個じゃ足りないね。じゃあ、10のおうちから8個あげよう」。10個のかたまりから8個を取ると、おうちには2個残ります。最後に、おうちに残った2個と、はじめのバラ3個を合わせます。「おうちに残った2個と、バラの3個。あわせていくつ?」「5個だね!」。この「最後に合わせる」一手を忘れる子がとても多いので、ここは一緒にゆっくり確認してあげましょう。
減々法・数え引きの見せ方
減加法でどうしても「最後に足す」が腑に落ちない子には、減々法が向きます。13からまず3を引いて10にして(13−3=10)、残った5を10から引く(10−5=5)。引き算だけで進むので、途中で足し算が出てこないぶん、すっきり感じる子がいます。おはじきでも、まずバラ3個を取り去って10にし、そこからさらに5個取る、と見せれば伝わります。
数え引きは、数の並びが得意な子に。「13から8つ戻る」と決めて、「12、11、10、9、8、7、6、5」と一緒に声に出して戻ります。時間はかかりますが、確実に答えにたどり着けるので、まず「できた」の自信をつけたいときに有効です。どのやり方も、行き先(正しい答え)は同じ。お子さんがいちばん安心して進める道を選んであげてください。
つまずきポイントは、たいてい「この2つ」
減加法で止まる子は、次のどちらかでつまずいていることがほとんどです。
- ①13を「10と3」に分けられない:10の合成・分解の土台がまだの状態。おはじき遊びに戻りましょう。
- ②引いた後、バラを足すのを忘れる:「10−8=2」で満足して、2と答えてしまう。最後の「合体」を口グセにします。
見分け方は簡単です。「13は10といくつ?」と聞いて答えられなければ①、そこはスラスラなのに最後の答えだけズレるなら②。どちらも叱る場面ではありません。「どこで止まっているか」を見つけてあげるだけで、声かけのポイントが定まります。①ならおはじき遊びに戻り、②なら「おうちに残った数と、バラを合わせるんだよ」と最後の一手だけを一緒に確認すれば大丈夫。②でどうしても足し忘れるなら、足し算が混じらない減々法に切り替えるのも手です。
なお、繰り上がりも含めた全体の進め方は、繰り上がり・繰り下がりでつまずく子への全体まとめにまとめています。
繰り下がりで、やりがちな逆効果の教え方
良かれと思ってやると、かえって難所を高くしてしまう関わりがあります。次の3つは、ぐっとこらえてみてください。
ひとつ目は、いきなり筆算の手順だけ覚えさせること。意味を飛ばして「10から引いて足す」と丸暗記させると、その場はできても、少し形が変わると総崩れになります。ふたつ目は、複数のやり方を一度に教えること。減加法も減々法も同時に見せると混乱するので、まずは1つに絞り、定着してから別の道を見せます。三つ目は、できないときにプリントを増やすこと。繰り下がりはプリント量で解決する単元ではありません。詰まったら、紙を増やすより、おはじきに戻るのが正解です。
共通するのは、「急がせない・意味を飛ばさない」。遠回りに見えても、具体物で腑に落とすのが、結局いちばんの近道です。
想定エピソード:やり方を変えたら、通れた
以前、「13−8」で毎回フリーズする子に、学校で習った減加法を何度も教えていたお母さんがいました。「10から8引いて、3を足して」と説明するたびに、子どもは「足すの?引くんじゃないの?」と混乱し、涙目になっていたそうです。
あるとき、減々法を見せてみたといいます。「先に3を引いて10にしよう、そこから5引いたらいくつ?」とやると、引き算だけで進むからか、子どもが「あ、5!」とすんなり答えた。「学校のやり方じゃないけど、この子にはこっちが合っていた」と気づいてからは、繰り下がりへの苦手意識がやわらいでいったそうです。やり方は一つでなくていい、と教えてくれるエピソードです。
よくある質問
Q. 学校と違う解き方を覚えさせて、混乱しませんか?
A. 行き先(正しい答え)が同じなら、混乱はしにくいです。むしろ自分に合うやり方で「できた」を経験するほうが、自信になります。学校のテストは答えが合っていればよいので、過程のやり方は自由。気になるなら先生に一言伝えておくと安心です。
Q. 減加法と減々法、結局どちらを教えればいいですか?
A. まずは学校の主流である減加法から。それで「最後に足す」で混乱するなら、足し算の混じらない減々法に切り替えてください。どちらが正しいということはなく、その子がスムーズに答えにたどり着けるほうが正解です。
Q. その場ではできるのに、次の日には忘れています。
A. 繰り下がりは手順が複雑なので、一度で定着しないのが普通です。プリントを増やすより、おはじきで「10のおうちから引く」を何度も体感させるほうが、深く残ります。忘れても叱らず、毎回同じ合言葉で確認してあげてください。
Q. 繰り下がりが、この先の筆算にも影響しますか?
A. はい、2けたの引き算の筆算も「10をくずして引く」考え方が土台になります。だからこそ今、急いで丸暗記させるより、意味を体で分かっておくことが将来効いてきます。土台ができていれば、筆算はむしろスムーズに入れます。
「10のおうちから引く」が、合言葉
繰り下がりでフリーズするのは、お子さんの理解が遅いからではなく、それだけ操作が複雑な難所だからです。焦って手順を丸暗記させるより、その子に合った解き方で「10のおうちから引いて、最後に合体させる」流れを、おはじきで何度も体感させてあげるのが一番の近道。具体物で納得した感覚は、ドリルよりずっと深く残ります。
足し算がスラスラできるようになった子が、繰り下がりで急に止まると、「あれ、急にできなくなった?」と心配になりますよね。でも、それは後退ではありません。足し算より一段むずかしい山に、今ちょうど差しかかっただけ。ここはみんなが一度つまずく、全員共通の難所です。だから「なんでここだけ」と責める必要はまったくありません。
今日は「13−8」を鉛筆で解かせる前に、ブロックを13個ならべて「10のおうちと、バラに分けてみようか」と、一緒に手を動かしてみてください。手でさわって「おうちから引くんだ」と腑に落ちた瞬間、お子さんの表情はふっとゆるみます。その「わかった!」をひとつ積めれば、今日はもう十分。難所をひとつ越えるたびに、お子さんも、隣で見守るあなたも、ちゃんと前に進んでいます。

