「左利きだからか、書くのがどうにも大変そう」「書いたそばから手が真っ黒に汚れる」「お手本が手で隠れて見えにくそう」。左利きのわが子の書きにくさに、どうしてあげればいいのか悩んでいませんか。手伝ってあげたいのに、何が原因で書きにくいのかが分からず、もどかしい思いをしている方も多いと思います。
まず、大前提をお伝えします。左利きは個性であって、直す必要はありません。 書きにくさの多くは、「左利きそのもの」ではなく、右利きを前提に作られた環境から来ています。だから、無理に右手へ矯正するのではなく、環境をちょっと整えてあげるだけで、ぐっと書きやすくなります。まずは、何が書きにくさを生んでいるのかを知るところから始めましょう。
左利きの子が感じる「3つの困りごと」
日本語は、左から右へ書いていきます。この「左から右」というルールが、左手で書く子にいくつかの困りごとを生みます。原因が分かると、対策もはっきりします。
困りごと①:お手本や書いた字が、手で隠れる
左手で書くと、これから写すお手本や、書いたばかりの文字を、自分の手が覆ってしまいます。見ながら書き進めたいのに、肝心の部分が見えない。これでは書きにくいのも当然です。
困りごと②:書いた字を手でこすって、汚れる
書いた文字の上を、左手が右へ通っていきます。すると、鉛筆の粉が手の側面でこすれて、字が汚れたり、にじんだりします。「なんで汚すの」と言われがちですが、これは本人の不注意ではなく、手の動く向きの問題です。
困りごと③:はらいが「押す」動きになる
「し」や「く」のように右へはらう線は、右利きなら自然に「引く」動きですが、左手だと「押す」動きになり、どうしてもぎこちなくなりがちです。きれいにはらえないのは、練習不足ではなく、手の動かす向きが逆だからなのです。
どれも、本人の能力や、がんばりが足りないせいではありません。すべて環境と動きの向きの問題です。ここを取り違えて「もっと丁寧に」「なんで汚すの」と言ってしまうと、子どもは「自分が下手だからだ」と落ち込んでしまいます。原因が自分ではなく環境にあると分かるだけで、親の声かけは自然とやわらかくなります。
「右に直したほうがいい?」への答え
「将来困るから、右に直したほうがいいの?」と悩む方はとても多いです。でも、利き手を無理に矯正すると、子どもに大きな負担がかかることがあります。本来やりやすい手を取り上げられるのは、大人が思う以上のストレスです。左利きのままでも、環境を整えれば、きれいな字は十分に書けるようになります。
左利きの有名な書家やイラストレーターがたくさんいるように、利き手はうつくしい字を書くこととはまったく関係ありません。「直す」のではなく「書きやすくする」。この発想に切り替えるだけで、親も子もぐっとラクになります。
困りごと別・おうちの環境づくり
3つの困りごとは、どれも環境の調整で和らげられます。困りごとと対策を並べてみましょう。
| 困りごと | おうちでできる対策 |
|---|---|
| お手本・字が手で隠れる | 紙を少し右に傾けて(右上がりに)置く/お手本は右側か上に置く |
| 手元が暗くて見えにくい | 明かりを右前から当てる |
| 書いた字がこすれて汚れる | こまめに手を拭ける布をそばに置く/なめらかに書ける鉛筆を選ぶ |
| はらいが押す動きでぎこちない | 急かさず、書きやすい角度を一緒に探す |
紙の角度は、お子さんが書きやすいところを一緒に探してみてください。「これ、書きやすい?」と聞きながら、ぴったりの角度を見つけるのが、いちばんの近道です。筆記具は、押す動きでもスッと書けるよう、なめらかに書ける鉛筆を選ぶと負担が減ります。左利き用に作られた鉛筆削りやはさみ、書きやすさを工夫した文具もあるので、「左利きだから不便」を道具の力で減らせる、と知っておくだけでも心強いものです。
急かさないことが、いちばんのサポート
もうひとつ大切なのが、書く速さを急かさないこと。左利きの子は、はらいや汚れに気をつけながら書いている分、最初は少し時間がかかることがあります。それは丁寧に向き合っている証拠で、慣れればスピードは自然と上がっていきます。「遅い」と急かすより、「ていねいに書けてるね」と見守ってあげてください。
また、鉛筆の持ち方が右利きの子と少し違っても、本人が書きやすければ無理に直す必要はありません。大事なのは、見た目のかたちより、お子さん自身が「書きやすい」と感じられることです。やりがちな声かけを、少し変えてみましょう。
| ついやりがちな声かけ | こう言いかえる |
|---|---|
| 「なんで字を汚すの」 | 「手でこすれちゃうよね。布で拭きながら書こう」 |
| 「もっと速く書きなさい」 | 「ていねいに書けてるね。ゆっくりでいいよ」 |
| 「右手で書いてみたら?」 | 「左利きはかっこいい個性。書きやすくしようね」 |
そして、書きにくそうにしているときは、「左利きはかっこいい個性だよ。書きにくいのはあなたのせいじゃなくて、道具や置き方のせい。一緒に書きやすくしようね」と声をかけてあげてください。「直しなさい」ではなく「書きやすくしよう」という姿勢が、子どもの自己肯定感をしっかり守ってくれます。
以前、「左利きの息子が、字を汚すたびに不機嫌になる」というお母さんがいました。よく見ると、書いた字を手でこすって、いつも消えかかっていたのです。紙を少し右に傾け、こまめに手を拭く布を置いただけで、汚れがぐっと減り、本人も「きれいに書けた!」とうれしそうに。叱る必要なんて、最初からなかったのです。困りごとの正体さえ分かれば、解決はとてもシンプルでした。
学校生活での「ちょっとした配慮」も頼んでいい
家の環境が整っても、お子さんは1日の多くを学校で過ごします。学校でも書きやすくなるよう、担任の先生に一言伝えておくと安心です。「左利きなので、書くときの様子を気にかけてほしい」「席や配り物で配慮してもらえると助かる」。こう伝えるのは、わがままでも特別扱いでもありません。お子さんが安心して学べる環境を整える、立派なサポートです。先生は意外なほど親身に応じてくれます。
また、ひらがなの書字は、書く以外の「手の経験」とも地続きです。左利きの子は、はさみ・定規・鉛筆削りといった道具が右利き用で使いにくいことが多く、それが「手を使うこと全般」への苦手意識につながることもあります。左利き用の道具をいくつかそろえてあげると、「自分の手は不器用なんだ」という誤解を防げます。手を使う経験が前向きになると、書くことへの気持ちも軽くなっていきます。
成長とともに、自分で工夫できるようになる
今は親が環境を整えてあげる時期ですが、左利きの子は成長とともに、自分なりの書きやすい工夫を見つけていきます。紙の角度を自分で変える、手の位置をずらす、汚れにくいペンを選ぶ。こうした工夫は、本人が「書きにくさは自分のせいじゃない、工夫で変えられる」と知っていれば、自然と身についていきます。
だからこそ、今かけてあげたい言葉は「直しなさい」ではなく「どうしたら書きやすい?」という問いかけです。一緒に工夫を探す経験そのものが、その子が将来、自分で快適な環境を作っていく力になります。左利きは、不便ではなく、工夫上手になれる個性なのです。
よくある質問
Q. 左利きは、やっぱり右に直したほうがいいのでしょうか?
A. 無理に直す必要はありません。利き手の矯正は子どもに大きな負担をかけることがあり、左利きのままでも環境を整えればきれいな字は十分書けます。「直す」より「書きやすくする」を選んであげてください。
Q. 鉛筆の持ち方が、右利きの子と違います。直すべきですか?
A. 本人が書きやすそうで、極端に握りこんでいるなどでなければ、無理に直さなくて大丈夫です。左利きは右利きと手の向きが違うので、持ち方も少し変わるのが自然です。大事なのは見た目より、書きやすさです。
Q. 学校の机やお手本は右利き用です。家でどこまでできますか?
A. 家でできることはたくさんあります。紙の角度、お手本の位置、照明、道具を整えるだけで、書きやすさは大きく変わります。気になることがあれば、担任の先生に「左利きなので席や配り物で配慮してほしい」と一言伝えておくのもいい方法です。
Q. 字が汚いのは、左利きのせいですか?
A. 多くは「汚い」のではなく、書いた字を手でこすってにじんでいるだけです。こまめに手を拭く、なめらかな鉛筆を使う、紙を傾ける。この工夫で、見違えるほどきれいに見えるようになります。字そのものは、ちゃんと書けていることが多いですよ。
Q. 書くとすぐ「疲れた」と言います。左利きだからでしょうか?
A. 右利き前提の環境で書いていると、手やお手本が見えにくく、よけいな力が入って疲れやすいことがあります。紙の角度や照明を整え、書く量を一度にたくさん求めないだけで、ぐっとラクになります。「疲れた」は甘えではなく、書きにくさのサインだと受け止めて、休み休み進めてあげてください。
左利きは個性、必要なのは「環境の調整」
左利きの子がひらがなを書きにくいのは、本人のせいでも、利き手のせいでもなく、右利きを前提にした環境のせいです。お手本が手で隠れる、こすれて汚れる、はらいが押す動きになる。この3つの困りごとは、どれも紙の角度、お手本の位置、照明、道具を整えるだけで、ぐっと和らぎます。
わが子が書きにくそうにしていると、つい心配になりますよね。でも、環境さえ合えば、左利きの子も、のびのびときれいな字を書けるようになります。「直す」より「書きやすくする」を合言葉にしてみてください。今日はまず、紙の角度を少し右に傾けて、お手本を右側に置いてあげましょう。「これ、書きやすい?」と聞きながら、お子さんにぴったりの環境を、一緒に見つけていってくださいね。
ひらがなのつまずき全体を見渡して、ほかの入り口も確かめたいときは、どこから手をつければいいかを整理した入り口ガイドも読んでみてくださいね。

